財務モデリングを学ぶための書籍3選【初心者〜実務家向け】

ファイナンス

はじめに:なぜ財務モデリングを学ぶべきなのか?

財務モデリングとは、将来の財務数値を予測したり、意思決定の判断材料を提供したりするための手法です。Excelなどの表計算ソフトを使って、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書を連動させるモデルを構築し、企業のビジネスモデルや将来性、リスク要因を明確にするとともに、将来のシナリオ分析をすることが主な目的となります。

従来は投資銀行やファンド業界、あるいは経営企画部門など、限られた職種で専門的に扱われていました。しかし近年では、その適用範囲が広がっています。たとえば営業企画・マーケティング・人事・経理といった部門でも、予算管理や業績予測、KPIの設計などにおいて、一定のモデリングスキルが求められる場面が増えてきました。

財務モデリングの学習というと、Excelの関数や会計の基礎知識に目が向きがちですが、それだけでは十分ではないと考えます。実務では、事業の構造を理解したうえで、仮定や前提を明確にし、論理的な整合性を保ったモデルを設計することが求められます。全体として一貫性がなければ、意思決定に使えるツールとはなりません。つまり、テクニックも重要ですが、ビジネスモデルを捉えたうえでそれを説得力のある形で分解し、数字に落とし込んでいく力が重要であると考えています。

そのため、Excel上で数値をつなぐだけでなく、「なぜその仮定を置くのか」「KPIとこの数字がなぜ連動するのか」といった各数字間の繋がり、設計の意図まで説明できることが重要です。

こうした背景を踏まえ、財務モデリングを体系的に学ぶための書籍を3冊紹介します。基本的な考え方からExcelでの実装、応用的な分析まで、段階的に学べる書籍を中心に選んでいます。これから学習を始めたい方や、すでに実務に携わっている方の理解を深めたい方の参考になれば幸いです。

外資系金融のExcel作成術

 世界的金融機関、モルガン・スタンレーのExcelテンプレートを作成し、ニューヨーク本社のチームから「エクセルニンジャ」と呼ばれた著者が、世界で通用するExcelシートの作り方と、プロフェッショナルの分析手法を解説する。

 第1部「基礎編」では、フォントや色、罫線の使い方など、日系企業が知らない世界標準の「お作法」を紹介。実は、日系企業が作るExcelシートの多くは、グローバルでは「非常に見づらい」という評価を受けている。何が違うのか、なぜそうすべきなのか。世界の金融機関が暗黙のルールとしているExcelの書き方を紹介する。

 第2部「モデル編」では、外資系金融マンの必須スキル「財務モデル」の作り方を紹介する。Excelでできる本格的企業分析の手法を、基礎から判りやすく解説。コンサルティング会社や投資銀行、総合商社、監査法人などにお勤めの方はもちろん、企業で経営企画や財務に関わっている読者にとっても、すぐに役立つ実践的内容となっている。

ーAmazon説明欄より引用

 著者の慎泰俊氏は、五常・アンド・カンパニーの創業者であり代表執行役を務めています。モルガン・スタンレー・キャピタルやユニゾン・キャピタルで投資業務に携わり、財務モデルや分析システムの開発経験があります。2014年に独立し、金融包摂や社会支援にも取り組んでいます。世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーにも選出されており、多方面で活躍されています。

 本書の特徴は、①財務モデルの作成方法と②作成したモデルの美しい見せ方という両面を、非常に基礎的な点から解説していることです。財務モデリングに触れたことがない読者が最初によむには非常によい書籍です。

事業計画の極意

 本書は、ビジョンを実現するために、数字としてどう表現していくか、その体系と方法論を徹底的に解説します。数字として表現できるということは、「戦略から戦術、取るべき行動・施策まで具体化されていること」が前提となります。

 本書では、事業計画作成に18年、スタートアップから中小企業、大手企業、その新規事業、さらに海外で発電所・工業団地などのあらゆる事業計画・収益シミュレーション構築に携わり、さらに自身で事業計画を作成するためのプロダクトまで手掛けた著者が、自身と今まで関与・支援してきた全てのビジネスでの経験を結集し、その知見・ノウハウを体系化、余すことなく記した画期的な書です。

ーAmazon説明欄より引用

著者の木村義弘氏は、東京大学大学院修了後、株式会社インスパイアでスタートアップ投資や支援に携わりました。デロイトトーマツコンサルティングでは東南アジアの新規事務所立ち上げや産業政策に従事し、その後日系大手メディア企業のM&Aチームで国内外のM&Aを主導しました。子会社のCFOも務め、経営管理体制の構築に尽力。2018年に株式会社プロフィナンスを設立し、ファイナンス分野の新規プロダクト開発を行っています。

本書は、事業計画の必要性や財務諸表の概要といった財務モデリングに必要な基礎的な知識から、財務三表(PL・BS・CF)の設計・モデリングまで主要な論点を網羅的に解説しており、財務モデリング初心者から中・上級者まで非常にお勧めできる書籍です。

 財務モデリングを単なる数字の組み合わせやExcelテクニックとして捉えるのではなく、ビジネスを論理的に分解したうえで定量化することにより、ビジョンと事業計画の断絶を解消することに重点を置いています。

 著者が18年以上にわたり多様な業界や企業規模で培った実務経験をもとに、売上やコストの構造化、KPI設計、資金調達まで幅広くカバーしています。単なるモデル作成に留まらず、実行可能な計画を立案し、PDCAを回すまでの一連のプロセスを体系的に学べる点が他書籍との大きな違いです。

Investment Banking 投資銀行業務の実践ガイド

 米金融機関の新入社員、転職者、現場の実務者に読み継がれてきた定番書、待望の邦訳!

 バリュエーション(企業価値評価)の手法、レバレッジド・バイアウト(LBO)の分析法、M&A(企業の合併や買収)やIPO(新規株式公開)の実務を、ケーススタディに基づいてステップごとに解説する。

ーAmazon説明欄より引用

 著者はUBS等を経てRBCキャピタルマーケッツのマネージングディレクターを務めるジョシュア・ローゼンバウム氏と、同じくUBS等を経てヒッコリーレーン・キャピタルマネジメントを創業し、CIOを務めるジョシュア・パール氏です。

 本書は、バリュエーション、LBO、M\&A、IPOといった投資銀行業務の主要領域を、ケーススタディを交えて体系的に解説しており、実務に直結する知識を学ぶことができます。内容は実際の金融現場に即した構成となっており、一定のファイナンス知識が前提とされているため、中級者から上級者向けの一冊と言えます。他の財務モデリング本と比べ、実務家や投資銀行やPEファンドを志望する読者に特化した、専門性の高い実務書である点が大きな特徴です。

おわりに

財務モデリングは、数字をつなぐだけでなく、会計・税務などの知識や、事業構造への理解が求められます。本記事で紹介した3冊は、基礎から応用、実務まで幅広くカバーしており、初心者はもちろん実務者にも有用です。本記事が、より精度の高いモデル構築スキルが身につくきっかけになれば幸いです。

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